第57回離婚弁護士コラム 離婚後の子育てにおける新たな選択肢 – 共同親権とは?

夫婦が離婚する際、最も大きな課題のひとつが「子どもの親権」です。これまで日本では、離婚後はどちらか一方の親のみが親権を持つ「単独親権」が原則とされてきました。

しかし、2024年5月に共同親権を認める民法改正が成立し、2026年までに施行されることが確定しています。 これは、日本の親権制度において約80年ぶりの大きな転換。

本記事では、施行が決まった「選択制共同親権」について、その概要、背景、メリット、課題などをわかりやすく解説します。

共同親権とは?

共同親権の制度概要

共同親権とは、離婚後も父母の両方が子どもの親権を持ち続ける制度で、進学、医療、財産管理など子どもに関わる重要な意思決定を両親で協力して行う仕組みです。

現行制度では、婚姻中は共同親権ですが、離婚すると一方の親だけが親権を持つ「単独親権」となります。その結果、もう一方の親は法的に子どもの重要な意思決定に関与できない状況が生じていました。

こうした課題を受けて、2024年に法改正が実現し、共同親権制度の導入が正式に決まりました。

日本で導入されるのは「選択制共同親権」

今回成立した法律で採用されたのは、「選択制共同親権」。これは、離婚時に両親の合意がある場合や、家庭裁判所が共同親権を適切と判断した場合に限り、離婚後も両親が共同で親権を持つことができるという制度です。

一方で、ドメスティック・バイオレンス(DV)や児童虐待といったリスクがある場合には、従来どおり単独親権を選択することも可能です。法制度としては、こうしたリスクへの配慮も明記されています。

国際的な流れと共同親権

共同親権は欧米諸国では一般的な制度であり、国連の「子どもの権利条約」においても、子どもが父母双方と継続的に関係を持つ権利が尊重されています。日本における法改正も、こうした国際的な流れに沿ったものであり、ようやくグローバルスタンダードに近づいたとも言えるでしょう。

共同親権のメリットとは?

共同親権のメリット1:子どもが両親と継続的に関わりを持てる

共同親権の最大の利点は、離婚後も子どもが父親・母親の双方と安定した関係を築き続けられることです。単独親権ではもう一方の親との関わりが希薄になりうる一方で、共同親権では両親が共に子育てに関与することで、子どもはそれぞれから愛情と支援を受けることができ、より健やかな成長を促す環境が整いやすくなります。

共同親権のメリット2:育児や教育の責任・負担を分かち合える

単独親権では、育児や教育に関する責任が一方の親に集中しやすく、心身の負担が大きくなる傾向があります。それに対して共同親権では、子どもの進学、健康管理、生活方針など、重要な意思決定を両親で分担できます。これにより親の負担が軽減されるだけでなく、異なる視点を取り入れながら、よりバランスの取れた子育てが可能になります。

共同親権のメリット3:子どもの福祉と権利を尊重しやすい

共同親権は、子どもの福祉と権利を守る制度としても注目されています。両親が協力して養育にあたることで、子の意思や生活環境を幅広く考慮しやすくなるのが特徴です。

共同親権のメリット4:親子関係の安定と心理的安心感を促進

子どもにとって両親の存在は心の支えです。共同親権は離婚による親子関係の断絶リスクを減らし、子どもが心理的に安定する効果が見込まれます。

さらに、親同士の連携が円滑になることで、家庭内のトラブルを減らし、子どもの成長に良い影響を与えます。

共同親権は子どもと親双方にメリットが大きい制度

共同親権は、離婚後も子どもと両親が関係を維持し、子どもの福祉を最大限に尊重するための重要な制度です。共同親権の選択肢が増えることで、より多くの家庭に安心と安定をもたらすことが期待されています。

共同親権制度施行後に予測される課題

共同親権制度の課題とは?

1. DV・虐待リスクへの対応不足

最大の懸念点のひとつが、ドメスティック・バイオレンス(DV)や虐待への対策です。加害者側が共同親権を主張した場合、被害者や子どもが心理的・物理的に追い詰められるおそれがあります。共同親権の制度を導入するには、DV事案を適切に排除し、安全を確保できる法的・実務的なフィルターが不可欠です。

2. 父母間の合意が得られないケースの多さ

共同親権では、重要な子育ての判断を両親が話し合って決めることが前提となります。しかし、離婚に至った夫婦の間では、信頼関係が崩壊している場合もあり、冷静な合意形成が困難になることも少なくありません。意見の対立が続くと、子どもが不安定な環境に置かれる可能性があり、「子どもの最善の利益」に反する結果を招くリスクがあります。

3. 実務運用・社会インフラの未整備

共同親権を円滑に運用するには、学校・病院・行政機関などの理解と対応が必要です。

たとえば、
■進学や予防接種にどちらの親の同意が必要か
■緊急時に誰に連絡するのか
■書類提出や手続きの取り扱い
など、現場での混乱が予想されます。共同親権の導入には、制度面だけでなく実務面の整備と周知が欠かせません。

4. 子どもの混乱・精神的負担

両親の間で意見が対立し続ける状況の中で、子どもが板挟みになり、精神的なストレスや葛藤を抱える可能性があります。共同親権の理念は「子どもの福祉」ですが、制度が適切に運用されなければ、逆に子どもに悪影響を与えるおそれも否定できません。

5. 家庭裁判所や福祉機関の負担増加

共同親権によって、親権者の決定や対立解消のために、家庭裁判所が関与するケースが増加することが予想されます。その結果、裁判所や関係機関の業務負担が急増し、対応が追いつかないリスクもあります。

共同親権を適切に運用するために必要なこと

共同親権を適切に運用するには、以下のような取り組みが求められるでしょう。
■DV・虐待を除外できる法的な安全網の整備
■家庭ごとの事情を考慮できる「選択制共同親権」
■家裁や第三者機関による合意形成支援
■行政・教育・医療機関での制度理解と実務対応
■親支援プログラムや共同養育に関する啓発

共同親権の実効性を高めるために

今後は、共同親権制度の理念を社会全体で共有し、関係者の理解と協力を深めていくことが不可欠。特に、親同士が建設的に対話できる環境を整えること、そして第三者による中立的な支援体制を充実させることが求められます。また、子どもの声を反映する仕組みや、家族ごとのニーズに応じた柔軟な対応も必要です。制度の実効性を高めるためには、法律だけでなく、教育、福祉、医療といった分野での横断的な連携が欠かせません。共同親権は制度導入がゴールではなく、子どもと家族のより良い未来を築くための出発点といえるでしょう。

共同親権は「すでに成立した」新制度。焦点は「どう運用するか」へ

2024年に法改正が成立し、日本における共同親権はすでに法律として確定しました。 施行を待つのみとなった現在、社会全体が注目すべきは「この制度をどう運用し、子どもの利益をどう守っていくか」です。

共同親権は、すべての家庭にとって万能の解決策ではありません。しかし、選択肢があることは重要であり、個々の家庭にふさわしい方法を選べるようになることは、子どもにとっても、親にとっても大きな前進です。

おわりに

今回のコラムでは、2026年までに施行予定の共同親権について解説しましたが、いかがだったでしょうか。離婚後の共同親権は、適切に運用されるならば、『子の利益』に沿う制度となりますが、他方で、離婚後もモラハラやDV等が継続してしまう等の懸念もありますので、施行後の運用状況等を注視して行きたいところです。

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