第45回離婚弁護士コラム 養育費の未払いでもあきらめない。取立てを容易にする民事執行法改正について

離婚の際に、養育費についての取り決めを交わしても、常に約束通りに養育費が支払われるとは限りません。厚生労働省の調査によると、養育費を受け取ることができている母子家庭の割合は全体の約24%しかありません。また、一時養育費の支払を受けたことはあるが、その後受け取れなくなった母子家庭が約15%もあります。

平成28年度全国ひとり親世帯等調査結果報告[養育費の状況]
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11920000-Kodomokateikyoku/0000188168.pdf

そのような状況を踏まえ、2020年4月に民事執行法が改正され、未払いの養育費を取り立てるための強制執行が行い易くなりました。今回のコラムでは、未払いの養育費の取立てと改正された民事執行法について解説したいと思います。

 

そもそも民事執行法って何?

民事執行法とは、強制執行などの手続きについて定めた法律です。

強制執行とは、債務者がなすべき義務を実行しない場合に、裁判所の力を借りて、強制的に実現する手続きをいいます。

例えば、養育費の場合ですと、養育費を支払うべき元配偶者が、約束通り養育費を支払ってくれない場合に、強制執行により、その元配偶者の給与や預金口座を差し押さえて、養育費を回収することができます。

 

民事執行法がどう改正されたのか

まず、基本的な知識として、強制執行をするためには、「債務名義」と呼ばれる、法的に支払を強制できる書面が必要になります。例えば、協議離婚時に作成した公正証書(強制執行認諾文言付)や調停離婚の際に作成された調停調書などがこれにあたります。

協議離婚の際に、養育費等の取り決めを行った際には、「公正証書の形で取り決めの内容を残しておきましょう」と言われるのはこのためです。

仮に、公正証書をきちんと作成していたとしても、実は、相手がどのような財産を持っているか把握できないと、何を差し押さえて、どう強制的に回収するのか不明なため、強制執行をすることはできません。

そのため、例えば、元配偶者の給与を差押さえようにも、その相手が転職していたような場合には、どこから支払われる給与を差し押さえるのか不明であったり、離婚時に把握していたものとは別の口座にお金を移されていたような場合には、口座を差し押さえることもできません。

つまり、強制執行をするためには、債務名義の他に、相手の財産状況を知ることが必要なのです。

しかし、元配偶者の財産状況を知ることは容易なことではないため、せっかく養育費の取り決めを交わし、いざという時の債務名義もしっかりと準備していたのに、事実上、養育費が滞納された場合に回収することはできないというケースが非常に多くありました。

そこで、改正された民事執行法では、相手の財産状況を把握するための手段を強化し、養育費回収のための強制執行を、より実効的なものとしています。

 

具体的な情報開示の手段

第三者からの情報取得手続き

民事執行法改正により「第三者からの情報取得手続き」というものが新設されました。

「第三者からの情報取得手続き」とは、裁判所が、債務名義を有する者の申し立てにより、第三者に対して、債務者の財産に関する提供を命じることができる手続きです。

簡単に言うと、今までは養育費を滞納している元配偶者の財産を自分で調査する必要があったのに対して、この手続きを利用すると、裁判所が、元配偶者の情報を持っている機関に、照会をかけて、財産の調査をしてくれるということになります。

例えば、市町村役場や年金事務所に照会をかけると、市町村役場には源泉徴収を行っている企業の情報がありますし、年金事務所にも厚生年金の納付記録があります。それらの情報から、元配偶者の勤務先を特定し、給与を差し押さえることが可能となります。

また、裁判所から、各金融機関に情報提供命令を出してもらうと、金融機関の本店から元配偶者の預金の有無や口座のある支店名、残高などの情報を取得することも可能となります。ただし、「日本全国の金融機関全てに照会をかける」のは不可能ですので、どこの金融機関に照会をかけるのかは特定する必要があります。「金融機関はわかるけど、支店名や口座の詳細が不明」という場合に活用できます。

財産開示手続き

「財産開示手続き」とは、裁判所が債務者を呼び出し、保有する財産の状況について報告させる手続きをいいます。

例えば、養育費を滞納している元配偶者を裁判所を通じて呼び出し、財産状況を報告させるというものです。

「財産開示手続き」自体は、2020年の改正以前から存在していたのですが、開示を拒んだり、ウソの情報を伝えても、30万円以下の過料という軽い罰則しかありませんでした。

しかし、それでは実効性が薄いということで、改正後の「財産開示手続き」では、財産開示に協力しない場合の罰則が強化され、出頭拒否や黙秘、ウソの情報を伝えると「6か月以下の懲役または50万円以上の罰金刑」が課されることになりました。

懲役になると、当然、刑務所に行くことになりますし、「罰金刑」は刑罰ですので、前科がつくことになります。過料は行政罰なので、前科にはなりません。

 

養育費の滞納・未払いがあってもあきらめない

今回のコラムの内容は、強制執行という難しいお話でしたが、大事なポイントは、養育費の滞納や未払いがあっても、回収を容易にするための手段が強化されているのであきらめないということです。また、養育費を貰っていないという方の中には、「どうせまた滞納されるだろうから、一度回収できたとしても意味がない」と考える方も少なくありませんが、将来支払ってもらう分についても差し押さえるという手段もあります。将来の支払分も差し押さえると、例えば、毎月○万円の養育費を、元配偶者の勤務先から直接支払ってもらうということも可能です。

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