第68回離婚弁護士コラム 離婚後300日問題はどう変わったのか|令和6年4月1日施行の新しい嫡出推定制度を弁護士が解説

離婚後300日問題とは
長年にわたり家族法の実務で議論され続けてきた「離婚後300日問題」。それは、民法の嫡出推定規定が「婚姻成立から200日後、または婚姻解消等から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する」と定めていたことに起因します。
この“300日規定”は制度として単純な推定ルールにすぎませんが、実務では深刻な問題を生んできました。離婚後に元夫ではない男性との子を宿した女性や、再婚後にその再婚相手との子が生まれたにもかかわらず、形式的には前夫の子と推定されてしまうという事態が多くの場面で生じたのです。
実際の父子関係とは異なる法的推定が自動的に働くことで、出生届が受理されない、不要の嫡出否認や親子関係不存在確認の手続が必要になる――そんな不合理を回避するため、長年にわたり制度改正の必要性が検討されてきました。
令和6年4月1日、ついに嫡出推定制度の大幅な改正が施行され、この「離婚後300日問題」は大きな転換点を迎えました。今回のコラムでは、改正前の問題点を振り返りつつ、新制度では嫡出推定がどう変わったのか、新旧制度の比較を交えつつ解説します。
従来の嫡出推定制度とその問題点
改正前の民法は、明治期からほぼ変わらない形で嫡出推定規定を維持していました。すなわち、「婚姻成立から200日後、または婚姻解消等から300日以内」に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定され、夫(婚姻解消後300日以内の場合には元夫)がその子の父親と法律上扱われます。
このルールは、医学的知見を踏まえた当時の合理性によって支えられていましたが、現代では多くの不合理を生じさせました。特に離婚や再婚が一般化した現代社会では、婚姻関係の変動と妊娠・出産のタイミングがさまざまに交錯します。その結果、形式的に「前夫の子と推定されてしまう」事例が後を絶たなかったのです。
また、推定を覆すためには「嫡出否認」などの手続を必要とし、父母いずれかの請求期限が短く厳格に制限されていたため、実際の父子関係に合致しない状態が長期間継続するケースも生じました。出生の秘密保持や家庭内の事情から、そもそも否認手続を利用できない家庭も少なくありませんでした。
このように、従来制度は実務上の困難を引き起こしており、かつ子どもの福祉の観点からも相当な問題を抱えていました。それが今回の大幅な法改正の背景といえます。
▪️従来制度では「離婚後300日以内」に生まれた子は必ず前夫の子と推定された。
▪️実務では、生物学的父と戸籍上の父が一致しないケースが多発していた。
▪️推定を覆す手続のハードルが高く、子どもの福祉を損なう場面も生じていた。
令和6年4月1日施行の新しい嫡出推定制度とは
今回の民法改正の最も重要なポイントは、「300日ルール」が単純に撤廃されたのではなく、推定が及ぶ対象となる夫を“直近の婚姻における夫”に変更した点です。
つまり、改正後も「婚姻解消等の日から300日以内に生まれた子は婚姻中に懐胎したものと推定する」という規定自体は残っていますが、もし離婚後に別の男性と再婚している場合には、推定される父は“前夫”ではなく“再婚後の夫”(「直近の婚姻における夫」)になります。「子の出生までに複数の婚姻がある場合、直近の婚姻の夫を父と推定する」という仕組みに書き換えられているというのがポイントです。
これにより、離婚後短期間で再婚した女性についても「前夫の子と推定される」という不合理がほぼ解消されます。また、「300日ルール」自体は維持されているので、離婚後に再婚していない場合には、従来どおり前夫の推定が働きますし、それが不都合の場合には、後述のように推定を排除する手続も拡充されています。
さらに、推定の根拠となる「懐胎の時期」に関する医学的知見の変化や、家族形態の多様化にも対応するため、嫡出否認制度も幅広い場面で使いやすいものへと改められています。この一連の見直しにより、従来の離婚後300日問題の主要部分は事実上解消されたといえるでしょう。
▪️300日ルールそのものは維持されている。
▪️ただし、「推定される父」は直近の婚姻の夫へと変更された。
▪️離婚後に再婚した場合、原則として前夫ではなく再婚後の夫が推定上の父となる。
新旧制度の違いを具体例で解説
新旧の嫡出推定制度でどこが違うのか、両制度を比較しながら整理します。
まず、離婚後に女性が再婚し、その後すぐに子どもが生まれた場合、従来制度ではほぼ自動的に前夫の子とされた場面でも、新制度では再婚した夫が父として推定されるようになりました。これは、実際の家族関係に合致するケースが多く、出生届の受理拒否や前夫を巻き込む手続といったトラブルを大幅に減らす効果があります。
また、従来は夫による嫡出否認の手続が出生日から1年以内などに限られ、その期限を逃すと実際の父子関係が反映できないことがありました。改正後は、母や子も広い範囲で親子関係不存在確認を求めることができるなど、柔軟な手段が整備されています。
さらに、出生届の取扱いについても、自治体が形式的に受理を拒否することを避け、家庭裁判所の判断を活用しやすい制度設計になっています。
これらの点を踏まえると、改正後の制度は、実際の血縁関係や家族関係の実情を尊重する方向へと大きく舵を切ったと言えるでしょう。
▪️離婚後に再婚していれば、原則として再婚相手が父と推定される。
▪️嫡出否認・親子関係不存在確認の手続が利用しやすくなった。
▪️自治体の出生届・戸籍実務にも柔軟性が与えられた。
新嫡出推定制度における手続
離婚後にすぐ別の男性との子を妊娠し、出産までに再婚した場合、従来制度では前夫の嫡出推定が働き戸籍処理が複雑になりました。しかし改正後は、再婚した夫が推定される父となるため、出生届の提出もスムーズです。
一方、離婚後に再婚しないまま出産したケースでは、改正後でも前夫の推定が働く可能性があります。この場合、実際の父が前夫でなければ、母や子が家庭裁判所の手続を利用して親子関係を否定することが可能であり、従来よりも手続の利用が容易になっています。
さらに、夫婦が別居状態で長期間生活している場合でも、嫡出推定が形式的に働くことがありますが、やはり改正後は親子関係不存在確認の道が広く開かれ、実情に反する推定を速やかに是正できるようになりました。
▪️再婚後の出産は、ほぼ自動的に「再婚相手の子」と扱われる。
▪️再婚していない場合でも、推定を否定する手続が整備されている。
▪️別居・空白期間など従来の問題領域にも柔軟に対処できるようになった。
おわりに
令和6年4月1日の改正法施行により、嫡出推定制度は大きく刷新されました。離婚後300日問題として知られていた不合理な推定は大幅に是正され、子どもの利益や家族の実情に沿った制度へと生まれ変わっています。
ただし、「300日ルール」そのものが廃止されたわけではなく、推定される父が「直近の婚姻の夫」となった点が最も大きな転換です。これにより再婚後の出産に関する不合理はほぼ解消され、推定を否定するための裁判手続もより柔軟に利用できるようになりました。
制度の運用は今後の実務の積み重ねによりさらに整備されていくものと考えられます。もし自身のケースがどのように扱われるのか不安がある方は、個別事情に即したアドバイスを受けるため、早めに専門家に相談することをお勧めします。
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