コロナ離婚に注意。「離婚原因」について弁護士が解説
離婚には、基本的に夫婦両方の同意が必要になります。ただし、民法770条の離婚事由を満たすと裁判上の離婚原因があるとして、該当する有責配偶者は離婚を拒否することができなくなってしまいます。
民法第770条
夫婦の一方は、以下の場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
1.配偶者に不貞な行為があったとき。
2.配偶者から悪意で遺棄されたとき。
3.配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。
4.配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
5.その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
このことは前回のコラムで解説してきました。
今回は上記の有責配偶者について詳しく解説していきます。
「配偶者に不貞な行為があったとき」とは?
日常的な言葉に言い換えると、浮気や不倫です。
浮気や不倫をしてしまうと、相手の離婚の要求を拒否することができなくなってしまいます。
少し突っ込んだお話をすると、二人きりで会ったり、食事をするだけでは不貞行為とはみなされません。具体的な不貞行為とは、性行為又は性行為類似行為が伴う関係性が不貞行為に該当します。
過去の判例を見る限り、たった一夜の過ちでも離婚をするのに相当である、と認定されることもあります。
そしてもう一つ。浮気や不倫の相手が同性だった場合はどうなるでしょうか。
実は、浮気や不倫の相手が同性だった場合には、上記「配偶者に不貞があった」とは認定されません。
ただし、同姓との不貞行為については、後に記載している「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に該当する可能性があり、また、昨今のジェンダーフリーの流れから今後不貞と判断される場合もあります。
「悪意で遺棄されたとき」とは?
そもそもですが、夫婦について定めた民法752条では、「夫婦は同居し、互いに協力し扶助しなければならない」と定められています。
これは、「同居義務」「協力義務」「扶助義務」という夫婦の3つの義務を定めているものです。
上記の「悪意の遺棄」はこれらの夫婦の義務に違反する行為になってきます。
たとえば、下記のような行動は悪意の遺棄であると認識される可能性があります。
・理由も告げず一方的に家から出て行ってしまった
・相手に収入がないのに、一切の生活費を入れない(扶助しない)
・相当の理由なく一方的に別居を要強いる
こうした行動をしてしまい、その証拠をもって相手に離婚を要求されると「有責配偶者」として離婚を拒否できなくなってしまうおそれがあります。
他方、悪意に遺棄をされた場合、特に別居と生活費の支払いがない場合は、離婚を成立させるより、生活ができなくなってしまい事態が深刻化するおそれがあります。
その場合には、相手方へ婚姻費用(結婚している間の生活費)を請求することになります。
仮に別居する場合は、相手が有責配偶者でない限り、真摯に話し合ったうえで夫婦生活を送ることが有責配偶者に当たらないために必要です。
「生死が3年以上明らかでないとき」とは?
これは少し特殊なパターンとも言えます。相手が3年間生死不明ということは、その間話をすることができないだけでなく、居場所もわかっていない状態ということです。通常時には家庭裁判所で離婚調停などの手続きを取るのですが、この場合は裁判の相手がいないということで、調停を経ずに離婚の請求をすることができてしまいます。この場合はなかなか証明が難しく、ただ所在が不明であるだけでは要件に当てはまりません。
逆に言えば、相手が突然いなくなってしまった際には、すぐに警察に捜索願を出すことです。これをもって、「探そうとしたけれども見つからなかった」ことの起算日の証明となります。また、3年の間家族や親族への連絡すら一切なかったことも証明を求められることがあります。もしその期間に一度でも連絡があれば、生きていることは確実であり、生死不明状態ではなく、行方不明状態、と判断されこの要件には当てはまらなくなります。
とはいえ、この場合は悪意の遺棄と判断されてしまう可能性も高いため、3年を待つことなく離婚することができるようになります。さらにこちらが浮気相手と一緒に失踪したことが判明すれば、より一層離婚を拒否することは難しくなるでしょう。
「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」とは?
大変不幸な事態ですが、ありえないとは言い切れません。
あなたが治癒の可能性がほとんどない重度の精神病にかかり、結婚生活の成立が不可能な状態の場合、相手方は一方的な離婚申し立てができます、こちらはそれを拒否することはできません。たとえば、痴呆・躁うつ病・認知症・アルツハイマー…などの症状が重度の精神病にあたることがあります。ただし、アルコール中毒や薬物中毒、ノイローゼなどの場合は回復の見込みありと判断され、「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」とは判断されないかもしれません。この境目については、医師からの鑑定書をもって証明とします。
このように定められてはいますが、実際の判例ではこの項目を適用した離婚成立は事例が多くありません。精神病に罹患した方に結婚生活を続けないという意思があるわけではなく、また、人権問題的にセンシティブな分野でもあるためであろうと考えられます。
こちらの条文に関しては、対策が考えにくいですが、そもそもこの条文を適用させた判例自体も少ないので、そこまで気にする必要はなさそうです。
「その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき」とは?
これまでにご紹介してきた1~4の条文には当てはまらないものの、婚姻が続けられないほどの事態であり、いわゆる5号事由、婚姻関係が破たんしている場合を指します。
1~4に列挙された事由ではないが、婚姻を継続し難い理由があるときはこの「その他婚姻を継続し難い重大な事由」に当たるか否かを過去の判例などを参照しながら検討していくことになります。
過去の判例で認められたものの例
・長期間の別居
・DVやモラルハラスメント
・犯罪による服役
・金銭的な浪費
・過度な宗教活動
・アルコール中毒、薬物中毒
・性的嗜好の不一致
・親族との不和、不仲
これらの例があれば直ちに婚姻を継続し難い理由があると判断されるわけではなく、これらの例があり、かつ、夫婦関係が破綻していると認められる場合に5号事由があると判断されます。
他方、単なる「性格の不一致」だけでは裁判上の離婚原因にはあたりません。
裁判例では、性格の不一致それ自体は離婚原因を補充するものでしかなく、性格の不一致を起因に他の事由が発生した場合、性格の不一致も婚姻関係破たんの一つの考慮要素として、離婚原因が判断されていますが性格の不一致それのみをもって5号事由に該当することはありません。
夫婦関係の破たんは、夫婦の生活が誰から見ても破綻しており、かつ、修復不可能であることの証明が求められます。同様に上記例があったとしても、それが「婚姻を継続しがたい重大な」になっていないと離婚原因とはいえません。
なお、実際の裁判で問題となるのは、1号の不貞行為を除けば、ほとんどがこの5号による離婚原因となりますが、その判断は様々な事情を総合的に考慮して判断するものですので、一概にどの場合に該当するとの判断は難しいでしょう。
離婚請求する側も離婚請求されている側も「婚姻を継続し難い重大な事由」についての場合は、一度弁護士の相談することをおすすめいたします。
いかがでしょう。もしこうした行為に思い当たることがある場合は、すぐに行為を見直した方がよさそうです。すでに相手によりこうした行為の証拠を取られていた場合は、離婚を拒否することが難しくなることもあります。