第50回離婚弁護士コラム 子どもが配偶者に連れ去られた場合、子どもを取り返すにはどうしたらいいのか

当事務所で最も多い相談のひとつに、「配偶者が子どもを連れて出て行ったので、取り返したい」、「別居中の配偶者が、下校中の子どもを勝手に連れ去って行ったので、取り返したい」などの、いわゆる子どもの連れ去り問題に関する相談があります。今回のコラムでは、子どもが配偶者に連れ去られた場合、子どもを取り返すにはどうしたらいいのか、子どもの連れ去り問題と監護権について解説したいと思います。

 

監護権について

子どもの連れ去り問題を考える際には、前提として、監護権について知っておくと、理解しやすいため、まず、子の監護権について解説したいと思います。

監護権とは、子どもの身の回りの世話や養育を行う権利のこと言います。つまり、監護権のある者(専門用語で監護権者といいます)は、自身の元に子どもを置いておくことができる権利があるということになります。

仮に、監護権のない者に、自身が監護する子を連れ去られた場合、監護権者は、その監護権を根拠として、子の引渡しを求めることができます。法的な権利を根拠に引渡しを求めるということは、強制執行等により、強制的に取り返すことが可能ということを意味します。また、現実問題、監護権のない者が勝手に子を連れ去った場合には、刑事上、未成年者略取誘拐罪という犯罪を構成することにもなりますので、警察に助けを求めることも可能となります。

 

監護権と連れ去り

親権者と監護権者を別に定めることも法律上可能ですが、通常は、親権者が監護権も有することになります。そして、夫婦は、離婚前であれば、双方が親権者となっているため(共同親権)、夫婦双方が監護権を有することになります。

そのため、離婚前の夫婦間で、子の連れ去りが行われた場合には、引渡しを求める相手方も監護権者となりますので、監護権を根拠に他方の配偶者から子を取り返すことは難しく、取り返すためには監護権者の指定という手続きが必要となります。

また、子の連れ去りは、平穏に監護養育されている生活環境を侵害する行為ではあるため、ケースによっては未成年者略取誘拐罪となる場合もありますが、連れ去った者も監護権者であるため、警察も、民事不介入として、なかなか動いてくれないのが現状です。

ただし、DVや虐待等により子どもに身の危険が迫っている場合には、人身保護請求や警察による介入も可能となりますので、すぐに弁護士や警察等の関係機関に相談することが重要です。

 

子どもを取り返す方法

離婚前の配偶者から子を取り返すことが難しいのは、「相手方にも監護権がある」からですので、子を取り返すためには、相手から監護権を奪う必要があります。

そのためには、家庭裁判所に調停・審判の申し立てを行い、監護権者を自分に指定してもらい(監護権者が自分に指定されると、相手は監護権を失う)、その上で、子の引渡しを命じてもらうというプロセスが必要というわけです。子の引き渡し及び監護権者指定の調停や審判を家庭裁判所に申し立てるというのが、いわば子を取り返す正攻法と言えます。

ただ、調停や審判となると、裁判所の判断が下るまでに、早くても半年、長引くと1年以上かかるというケースもありますので、迅速に子を取り戻すためには、審判前の保全処分を申し立てる必要があります。

保全処分というのは、耳慣れない言葉かもしれませんが、権利を保全するために、その権利の確定または実現までの間、裁判所から命じられる暫定的な処分のこといいます。

つまり、審判が確定するまでの間は、ずっと子が連れ去られた状態が続いてしまうわけであり、それでは、本来監護権者となるべき者の権利が損なわれ、子の利益も害され続けてしまうため、暫定的に、子の引渡しを命じてもらう処分が保全処分というわけです。もちろん、暫定的な処分であるため、審判の結果、監護権が認められなければ、逆に子を引き渡さなければなりませんが、保全処分が認められれば、審判が確定するまでの間、相手に連れ去られた状態が継続してしまうことを避けることができます。

 

おわりに

今回のコラムでは、子どもが配偶者に連れ去られた場合、子どもを取り返すにはどうしたらいいのか、子どもの連れ去り問題と監護権について解説しましたが、いかがだったでしょうか。

後半の保全処分のお話しは、専門的な話しとなるため、少し難解であったかもしれませんが、子の連れ去り状態を迅速に解消し、また、相手方から早く取り戻すことにより、監護実績が相手方にできてしまうことを防止できるため、非常に重要な手続きとなります。

いかに保全処分が、審判(本案)確定前の暫定的な仮の処分であり、本案と比べて迅速に審理がなされると言っても、処分が下るまで2~3ヶ月は要するため、子どもが連れ去られた場合には、専門の弁護士にすぐに相談することが大切です。

当事務所では、『チルドレン・ファースト』の理念の下、子の連れ去り、子の引き渡し問題に積極的に取り組んでおります。離婚問題のみならず、子の引渡し、監護権者指定、審判前の保全処分等について、多くの実績と経験のある弁護士が、皆様のお悩みに真摯に対応いたします。相談は初回無料となっていますので、お気軽にご相談ください。