第56回離婚弁護士コラム 離婚時に母親が親権を獲得するための重要なポイント

離婚を考えたとき、多くの母親が直面するのが「子どもの親権をどちらが持つか」という問題です。母親だからといって自動的に親権を得られるわけではなく、状況によっては父親に親権が渡ることもあります。この記事では、離婚時に母親が親権を獲得するために押さえておくべき重要なポイントを詳しく解説します。

離婚後の親権について

親権とは何か?基本知識と種類

親権とは、未成年の子どもを養育・監護する権利と義務のことです。大きく分けて以下の2種類があります。

・身上監護権:子どもの住居指定・教育・医療・生活に関する決定権
・財産管理権:子どもの財産を管理する権利

日本では、離婚後は父母のいずれか一方が親権者となる「単独親権制度」が採用されています。

離婚時の親権の決まり方

日本では約90%が「協議離婚」です。夫婦の話し合いで親権者を決められます。市区町村役場に提出する離婚届には「親権者欄」があり、どちらか一方の親の名前を記載しないといけません。話し合いで合意すれば、特別な裁判手続きは不要です。しかし、協議が成立しない場合は、家庭裁判所を通じて調停・裁判に進む必要があります。

 

親権獲得のための法律的手続き

調停・裁判で親権を争うときの手続き

話し合いで親権が決まらない場合、まず家庭裁判所で「離婚調停」を申し立てます。調停委員を介して双方の主張を整理し、合意を目指します。そこで解決すれば「調停離婚」となり、調停調書に親権者が明記されることに。調停が不成立しないと、家庭裁判所での「離婚裁判(訴訟)」へ進みます。裁判所が証拠・証言・環境調査をもとに親権者を決定するのです。

 

親権獲得に影響する裁判所の判断基準とは?

親権争いで裁判所が最も重視するのが、「子どもの最善の利益」。以下の6つが、裁判所が親権者を選ぶ際に注目する判断基準です。

① 監護実績(育児実績)
どちらの親がこれまで実際に育児・監護してきたかが評価されます。離婚前からの継続性が重視されやすいです。

② 子どもとの心理的結びつき
子どもとどちらが強い信頼関係を築いているか、子どもが安心して過ごせる相手かどうかが考慮されます。

③ 生活環境の安定性
子どもが安心して暮らせる住居や生活基盤があるかが見られます。転校・転園の有無、引っ越しの影響なども含まれます。

④ 親の精神的・身体的健康状態
子育てを安定的に継続できる心身の健康状態かが確認されます。アルコール依存、うつ病、暴力・モラハラの有無も考慮対象です。

⑤ 子どもの意思(特に10歳以上)
裁判所は、子ども自身の意向も慎重に取り入れます。特に10歳以上では意見聴取が行われることがあります。

⑥ 兄弟姉妹の分離回避
原則として兄弟姉妹を別々に育てるのは避けるべきとされています。子どものうち1人だけの親権を持つことは稀です。

母親が離婚後に親権を獲得しやすい条件とは?

母親が親権を得やすいケース

実際の調査でも、日本では母親が親権を得る割合が約9割と高い傾向にあります。以下のようなケースでは、母親が親権を得やすくなります。

・離婚前から主に母親が子どもを育てていた
・子どもが乳幼児で、母親との結びつきが強い
・母親が安定した収入や住居を確保している
・母親の精神的・身体的な健康状態に問題がない

母親が親権で不利になる主な理由

① 育児放棄や虐待の履歴がある
子どもに対する暴言・暴力・放置などが確認されると、親権者として不適格とみなされます。

② 精神的・身体的な健康に不安がある
精神疾患や依存症(アルコール・薬物など)、重度の病気があると、育児継続が困難と判断される可能性があります。

③ 経済的に自立していない
収入が極端に少ない、または住居が不安定で子どもを養う基盤がない場合、裁判所は子どもの安定を重視して不利に判断することも。

④ 子どもの生活環境が父親側に安定している
すでに子どもが父親と暮らしていて生活が落ち着いているケースでは、その状態を尊重する傾向が高いです。

⑤ 子ども自身が父親との生活を強く望んでいる
特に10歳以上の子どもではその意思も配慮されます。

 

母親が親権を獲得するために準備すべきこととは?

母親だからといって親権獲得が「当然」ではない

かつては「母親=親権が有利」とされていましたが、現在の裁判所では「子どもの最善の利益」を最優先に判断されます。母親だから有利なわけではなく、育児実績や生活の安定性などの客観的な要素が重視されます。

母親が親権獲得のために準備すべきこと

① 育児の中心を担っていた証拠を集める
裁判所が重視するのは誰が実際に育児していたかです。日常の積み重ねを“見える形”にしておくことで、裁判官に育児実績を伝える材料になります。

以下のものなどを用意しておくといいでしょう。

・保育園の送迎記録
・学校の連絡帳や行事参加記録
・通院時の診療明細・付き添い記録
・食事や入浴など日常育児の写真・動画

② 子どもとの信頼関係を深め、維持する
母親として、子どもが安心して心を開ける存在であることも重要です。子どもの悩みや気持ちに寄り添うことを第一に、無理に自分側へと誘導してはいけません。10歳以上の子どもは自分の意思が考慮されるため、子どもの発言や感情も大切な判断材料になります。

③ 生活環境を整える(住居・学校など)
引き続き通園・通学できる場所に住んだり、部屋や寝具、学習環境を確保したりするなど、子どもが今の生活を大きく変えることなく暮らせる環境を整えておきましょう。引っ越しが必要な場合でも、学校や生活環境の変化を最小限にする配慮が必要です。

④ 経済的な安定を示す
「収入が多い=親権獲得に有利」というわけではありませんが、子どもと生活を維持できる収入や支援制度の利用計画を示すことは大切です。ただし、収入の額よりも、生活の安定性と計画性が評価されます。

⑤ DV・モラハラがある場合は必ず記録・証拠を残す
夫側にDV・モラハラの行為がある場合は、親権争いにも強く影響します。
以下の証拠・記録があれば必ず残しておきましょう。

・録音データ・LINEなどの記録
・警察への相談記録・診断書
・DV相談センターの支援履歴

記録を時系列でまとめておくと、裁判官に伝わりやすくなります。

⑥ 弁護士に早めに相談する
親権を本気で取りたいなら、家庭裁判所の実務に詳しい弁護士への相談が不可欠。離婚・親権案件の経験が豊富で裁判所の方針や判断傾向に精通している方がおススメです。

親権争いで母親が不利にならないための注意点

裁判所は「子どもを大切にしている親かどうか」を見ています。自分の主張よりも、子どもの幸せを優先する姿勢が大切です。一方的に父親と会わせないなどの行為はマイナス評価になりますし、子どもに対してプレッシャーをかけたり、感情的になったりする言動は望ましくありません。

 

おわりに

離婚は大きな決断であり、親権の問題は母親にとって心身ともに大きな負担となります。しかし、しっかりと準備をし、子どもの将来を第一に考えた行動を取ることで、親権獲得の可能性は大きく高まります。育児の実績や生活環境、そして法律的な視点を意識しながら、一歩ずつ前に進んでいきましょう。不安なときは、信頼できる専門家に相談することも欠かせません。あなたとお子さんにとって最良の選択ができるよう、冷静に、そして確実に準備をしていきましょう。

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