第60回離婚弁護士コラム 熟年離婚の現実とは?離婚を考え始めたあなたに知ってほしいこと


長年連れ添ったパートナーとの離婚は、考えること自体とても勇気のいることです。特に熟年離婚は、これまで築いてきた生活や家族の形が大きく変わるため、不安を感じる方も多いでしょう。

この記事では、熟年離婚の現実や増加の背景、そして離婚を検討する上で知っておきたい重要なポイントをお伝えします。後悔のない選択をするためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。

熟年離婚についての基礎知識

長年の結婚生活を経た夫婦による離婚「熟年離婚」が最近注目されています。
まずは、その定義や増加の背景を解説します。

熟年離婚とは何か?

熟年離婚とは、法律上の定義はありませんが、結婚生活が長年続いた夫婦の離婚を指す言葉です。かつては「一度結婚したら一生添い遂げる」という価値観が一般的でしたが、近年、50代以降の夫婦による「熟年離婚」が増加傾向にあります。

熟年離婚が増加する背景

その背景として、社会構造の変化や個人の生き方に対する価値観の多様化が影響しているようです。

1. 子どもの独立による転機

長年「子どものために我慢してきた」という夫婦にとって、子どもの独立は大きな節目です。子育ての役割を終えたことで、夫婦関係を見つめ直し、「これからは自分のために生きたい」と考えるようになる人も少なくありません。

2. 夫婦間のすれ違いや会話の減少

長年一緒に生活していても、価値観や生活スタイルの違いが修復されないままでは、心の距離が広がっていってしまいます。特に定年退職後は、夫婦が一日中顔を合わせるようになるため、不満が顕在化しやすくなります。

3. 経済的・制度的な変化

女性の社会進出や年金分割制度などの整備により、「経済的に離婚できない」と感じていた人でも、離婚後の生活に見通しを持ちやすくなりました。これも熟年離婚の増加に影響していると考えられます。

4. 離婚に対する価値観の変化

「離婚=失敗」という考え方は過去のものとなりつつあります。現在では、「人生をよりよくするための選択」として、離婚を前向きに捉える風潮が広がっています。熟年世代にとっても、離婚が恥ずかしいことではなくなりつつあるのです。

熟年離婚のメリットとデメリット

熟年離婚には特有のメリットとデメリットがあります。メリットだけでなくデメリットやリスクも把握し、冷静に未来を考えていきましょう。

熟年離婚のメリットとは?

1. 自分らしい人生を取り戻せる

長年の結婚生活の中で、相手に合わせ続けてきた価値観や生活スタイルを見直し、「自分のための時間」を大切にできるようになります。趣味に打ち込んだり、新しい人間関係を築いたりと、やりたいことに挑戦する自由が広がります。

2. 精神的なストレスからの解放

不仲やすれ違いが続いていた夫婦では、日常的なストレスや我慢が積み重なっていることも少なくありません。離婚によってそのような環境から距離を置くことで、心身の健康が回復するケースもあります。

3. 第二の人生に向けた再出発

子育てや家族のために尽くしてきたこれまでとは異なり、今度は「自分の幸せ」を軸に人生を再構築できるのが熟年離婚の大きな特徴です。「残された人生を悔いなく生きたい」という思いからの選択とも言えます。

熟年離婚に伴うデメリットとリスク

1. 経済的な不安定さ

離婚によって、収入源や住居などが一変する可能性があります。特に専業主婦(主夫)だった場合、安定した収入が途絶えることは大きなリスクです。

2. 社会的な孤立・孤独

子どもの独立や友人関係の変化によって、離婚後は孤独を感じやすくなる傾向があります。配偶者との別れは、単なる人間関係の終了ではなく、生活の中で頼れる存在を失うことでもあります。こうした精神的な孤立感が心身の健康に悪影響を及ぼすこともあるため、十分な対策が必要です。

3. 住まいや生活環境の変化

財産分与によって自宅を売却したり、退去を余儀なくされたりするケースもあります。高齢になるほど新しい環境への適応は難しく、引っ越しや生活スタイルの変化が精神的ストレスとなることも考えられます。

4. 子どもや家族との関係悪化

親の離婚に対して、子どもが戸惑いや怒りを感じることもあります。とくに熟年離婚は「今さらなぜ?」と受け止められることがあり、家族関係がぎくしゃくする原因になる可能性があります。

熟年離婚で後悔しないために必要なこと

熟年離婚は、「残りの人生を自分らしく生きたい」という思いから選ばれることが多い一方で、離婚後に経済的・精神的な困難を抱えて後悔するケースも少なくありません。納得のいく決断をするためには、以下のポイントをしっかり押さえておくことが重要です。

1. 経済的なシミュレーションをしておく

離婚後の収入・支出、年金額、住居費などを現実的に見積もり、長期的な生活設計を立てておきましょう。年金分割や財産分与などの制度を正しく理解することも欠かせません。これらの制度を活用することで、一定の経済的支えを得られる可能性があります。

※年金分割制度には、合意分割と3号分割があり、加入期間や配偶者の年金加入状況によっては分割対象とならない場合もあります。詳細は弁護士など専門家にご確認ください。

2. 感情だけで決断しない

長年の不満や怒りから勢いで離婚を決めてしまうと、冷静になったときに後悔するかもしれません。まずは一度立ち止まり、自分の気持ちや将来のビジョンを整理することが大切です。

※ただし、DVやモラルハラスメントなど明確な被害がある場合は、安全確保を最優先し、専門機関や弁護士に相談することが重要です。

3. 離婚後の「生活の質」をイメージする

離婚後にどのような暮らしを送りたいのかを具体的に描いておくと、準備すべきことも見えてきます。住まい、仕事、人間関係、趣味など、自立した生活のイメージを明確にしましょう。

4. 周囲とのコミュニケーションを大切にする

離婚は本人同士の問題とはいえ、子どもや親族にも影響を及ぼす場合があります。可能な範囲で話し合いや説明の場を設けておくことで、後々の人間関係のトラブルを回避しやすくなります。

5. 法律的な問題は弁護士に相談する

離婚に関する法的手続き(協議書の作成や年金分割請求、財産分与など)は、弁護士の専門分野です。法的な判断や書類作成が必要な場合は、弁護士に相談してください。生活設計や将来の資金計画など、法的判断を伴わない領域については、ファイナンシャルプランナー等の専門家の助言を活用することもできます。

おわりに―熟年離婚で新たな人生を踏み出すために

長年連れ添ったパートナーとの離婚は、人生の大きな転機であり、簡単に決断できるものではありません。熟年離婚には、自分らしい人生を取り戻すチャンスや精神的な解放などのメリットがある一方で、経済的な不安定さや社会的孤立、生活環境の変化などのリスクも伴います。

だからこそ、離婚を考える際には、感情だけで判断せず、冷静に将来の生活設計を描くことが不可欠です。経済的なシミュレーションをおこない、家族や周囲とのコミュニケーションを大切にし、何より法律に関する手続きは専門の弁護士に相談することを推奨します。

熟年離婚は「終わり」ではなく、「新たな人生のスタート」として前向きに捉えられる選択肢の一つです。十分な準備と正しい知識をもって、後悔のない決断をし、新しい一歩を踏み出してください。あなたのこれからの人生がより豊かで充実したものになることを心より願っています。

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