第63回離婚弁護士コラム 離婚するとき借金はどう扱うべき?財産分与の仕組みとトラブルを防ぐ法律知識

離婚を考えるとき、多くの人がまず思い浮かべるのは「家や預金など財産をどう分けるか」という点でしょう。しかし意外と忘れられがちなのが借金の扱いです。目に見えやすい財産である家や預金だけを整理して借金を放置すると、離婚後に思わぬ請求が来る可能性もあります。

ここで重要になるのが「財産分与」という考え方です。財産分与とは、結婚生活のなかで夫婦が協力して築いた財産を、離婚の際に整理して公平に分け合う仕組みを指します。民法768条に規定されており、離婚時に夫婦の一方が他方に請求できる権利として法律で認められています。

ポイントは、財産分与の対象には預金や不動産といったプラスの財産だけでなく、住宅ローンや生活費の借金といったマイナスの財産も含まれるということです。つまり離婚を考えるときには、「夫婦の財産をどう分けるか」と同時に「借金をどう扱うのか」も避けて通れないテーマとなるのです。

離婚のとき、借金はどう扱われるの?

「離婚したら借金は借りた本人が払うものでは?」と考える方は少なくありません。確かに、借金は契約した本人(名義人)が返済義務を負います。これは契約自由の原則債権者保護の原則に基づくもので、たとえ夫婦が離婚しても、債権者にとって重要なのは契約を結んだ当事者です。そのため、離婚の有無にかかわらず、名義人に対して返済請求が続けられます。

ただし、離婚時に夫婦間で財産分与を行う場合には別の視点が加わります。夫婦で協力して築いた財産を分けるのと同じように、夫婦の共同生活のために負った借金も「婚姻中の財産関係の清算」という観点から調整の対象になることがあるのです。

つまり、外向きには債権者に対して名義人が返済を続ける義務が残る一方、内向きには夫婦間でその借金をどう整理するかを話し合えるという二重構造になっています。

たとえば夫名義の住宅ローンがある場合、金融機関からの返済請求は離婚後も夫に対して行われますが、夫婦間の財産分与では「誰が住み続けるのか」「ローン残高をどう考慮するのか」といった調整が必要になります。

夫婦で分け合う必要がある借金とは?

借金のすべてが財産分与の対象になるわけではありません。ここで参考になるのが「日常家事債務」という民法上の考え方です。これは、夫婦の共同生活を維持するために通常必要とされる契約や支出に関しては、夫婦双方に責任が及ぶというルールです。

この観点から、生活費や医療費、教育費のために負った借金、あるいは住宅ローンや家族で使う自動車のローンなどは、夫婦の生活を支える目的があったと判断され、財産分与の対象に含まれるケースが多く見られます。

一方で、ギャンブルや浪費のために負った借金、趣味や贅沢品の購入のための借金、結婚前にすでに抱えていた借金、あるいは別居後に個人的に負った借金は、夫婦の共同生活とは関係がないとされ、通常は財産分与の対象には含まれません。

また、住宅ローンなどで夫婦が連帯債務者や連帯保証人となっている場合は特に注意が必要です。離婚しても保証人としての責任は消えず、相手が返済できなくなれば自分に請求が来るリスクが残ります。これは見落としやすいものの、法律上非常に重要なポイントです。

借金があるときの財産分与はどう計算する?

冒頭で触れたように、財産分与では夫婦の財産を「プラスの財産」と「マイナスの財産」に分けて考えます。

流れとしては、まず預金や不動産などのプラスの財産を洗い出し、次に住宅ローンや借入金といったマイナスの財産を整理し、最後にプラスの財産からマイナスの財産を差し引いて残った額を原則2分の1ずつに分けます。

たとえば、夫の預金が300万円、妻の預金が200万円あり、夫名義の借金が100万円ある場合、(300万円+200万円-100万円)=400万円が共有財産の総額とみなされます。この400万円を夫婦で折半するため、夫と妻がそれぞれ200万円ずつ取得することになります。

一方で、マイナスの財産がプラスの財産を上回る場合、実務上、多くの場合では借金だけを分け合う形での財産分与は認められていません。名義人がそのまま返済を続けるのが通常であり、これは、「借金の返済義務は契約当事者に残る」という法律上の原則によるものです。

離婚後、借金の返済は誰が続けるの?

原則として、借金は契約した名義人が返済を続ける必要があります。夫婦間で「半分ずつ負担しよう」と合意しても、その合意は夫婦間の効力にとどまり、債権者に対しては影響を与えません。
ただし、財産分与の過程で「借金分を考慮して金銭のやり取りを行う」といった形で、夫婦間で負担を調整することは可能です。たとえば夫名義のローンがある場合、妻が受け取る財産額を減らすことでバランスを取るといった方法です。

離婚後の注意点として、借金の名義をそのままにしておくと、相手が返済を滞らせたときに影響を受ける可能性があります。特に住宅ローンや連帯保証については、離婚しても責任が残るため要注意です。

借金が絡んだ離婚時のトラブルでよくあるケース

実際の相談では、婚姻中に借金を隠していたことが後から発覚し、財産分与で争いになるケースがあります。

また、家族カードを利用していた場合には、たとえ妻が使っていたとしても契約者である夫に支払義務が生じるため、不公平感からトラブルに発展することもあります。

さらに、親からの借入は借用書などの証拠がなければ贈与と判断される可能性があり、その場合は財産分与の対象外となります。加えて、婚姻中に一方が配偶者の借金を肩代わりしていた場合も、財産形成への寄与として評価され、財産分与に反映されることがあります。

こうしたケースは、個別の事情や証拠の有無によって扱いが大きく変わるため、専門家の判断を仰ぐことが望ましい分野です。

借金問題を弁護士に相談すべき理由

マイナスの財産である借金が関係する財産分与は、単純な「半分こ」では解決できません。

たとえば、婚姻中に借金を隠されていたり、住宅ローンや連帯保証の責任が離婚後も残ってしまったり、マイナスの財産がプラスの財産を上回る状況で判断に迷うこともあります。さまざまな観点から状況を把握し、リスクを想定した上で適切に手を打っていくことが求められる実に複雑な分野と言えるでしょう。

ですが、弁護士に相談することで、こうしたリスクを適切に把握し、法律に基づいてどの借金が財産分与の対象になるのかを整理し、どのように対処すれば不利を避けられるかを検討できます。相手が財産を開示しない場合や、財産隠しが疑われる場合でも、弁護士会照会や裁判所の手続きを通じて財産を正確に把握できるのも大きなメリットです。

さらに、財産分与の合意内容を法的に有効な形で残しておけば、離婚後に「約束通りに支払ってもらえない」といったトラブルを防ぎやすくなります。

つまり、弁護士に相談することで、これまで挙げてきたリスクを最小限に抑え、将来の生活を安定させるための確実な準備ができるのです。

まとめ|離婚と借金問題を放置しないために

離婚時の財産分与では、プラスの財産だけでなく借金などマイナスの財産も含めて整理する必要があります。生活のための借金か、個人的な借金か、あるいは連帯債務や保証人としての責任が残るのか。この判断を誤れば、離婚後に予想外の負担を背負う可能性もあります。

不利にならないためには、離婚前に借金の扱いを明確にし、協議書や調停調書など法的効力のある形で文書化しておくことが大切です。複雑なケースでは弁護士に相談し、専門的なサポートを受けることで、安心して次の生活を始めることができるでしょう。

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