第64回離婚弁護士コラム 国際結婚の離婚|まず知っておきたい手続きと注意点

国際結婚は、異なる言語や文化を越えて築かれる特別な関係です。一方で離婚を考え始めると、「相手が母国へ帰国したら手続きは?」「外国での離婚は日本でも有効?」「子どもの親権や在留資格は?」など、不安が一気に増えます。

国際離婚は、国内離婚に比べて適用される法律(=どの国のルールを使うか)、どこの裁判所で扱うか、外国の離婚が日本で通用するか、ビザや国籍など、国境をまたぐ要素が重なりやすいのが特徴です。この記事では、基本の流れ→注意点→ケース別の進め方→よくある質問という順で、判断の目安をまとめます。

国際離婚の基本的な流れ

国内離婚と同じく、①協議離婚(話し合い)→②調停→③訴訟(裁判離婚)の順で進むのが基本です。
国際離婚ではここにもう一段、「どの国の法律を使うか(=準拠法)」と「どこの裁判所で扱うか(=管轄)」を最初に見立てる作業が入ります。相手が海外在住だと、裁判所の書類を相手に正式に届ける「送達」だけで数か月かかることもあります。

外国で離婚した場合は、その離婚を日本で通用させるために承認の条件を満たしているかを確認し、市区町村へ報告的届出(戸籍に反映させる手続き)を行います。

押さえておきたい論点・注意点

準拠法(どの国の法律が適用されるか)

「準拠法」はどの国のルールで離婚を判断するかという意味です。夫婦が同じ国籍ならその国の法律、国籍が異なるなら普段生活している本拠地(常居所)の法律が使われるのが基本。さらに、一方が日本に住む日本人なら日本法が使われる結論になりやすい特則もあります。

最初の見立てを誤ると、後で「その手続きは無効」となる恐れがあるため、早めに確認しましょう。

管轄(どの国の裁判所で手続を行うか)

「管轄」はどこの国の裁判所が担当するかです。日本で進められる場合もあれば、相手国の裁判所が適切と判断されることもあります。相手が海外にいると、送達や証拠集めに時間がかかるのが一般的です。時間・費用・実行可能性(判決が実際に効くか)を比べて、現実的な選択を検討してください。

書類送達・通訳・翻訳の課題

海外在住の相手に訴状などを正式に届けるには、国際ルートを使うため数か月単位で時間がかかることがあります。外国語の書類は日本語訳+翻訳証明を求められることがあり、通訳が必要な場合もあり得ます。時間と費用の見積もりを先に立てておくと安心です。

財産分与・慰謝料・年金・婚姻費用

海外の不動産・口座・投資などが絡む場合、どこにどんな資産があるかの洗い出しと評価方法の検討が肝心です。支払いや分与では為替(レートの変動)や海外送金、場合によっては現地税制も影響してきます。たとえば年金分割も日本制度の要件に従うため、相手国の制度と自動でつながるわけではありません。

親権・養育費・面会交流

子どもがいる場合は、居住国・国籍・生活基盤が親権の判断に直結します。片方が同意なく国外へ連れ出す/日本に留め置く行為は、ハーグ条約(国際的な子の連れ去りの返還・面会交流の枠組み)の対象になり得るため要注意です。面会交流は「どこで」「誰が費用を負担するか」まで詰めておくと後々運用しやすくなります。

外国判決の日本国内効力・認証・届出

外国で離婚しても、その結果がそのまま日本でも有効になるわけではありません。日本で有効と認めるための条件(適正な手続きで確定している、公序良俗に反しない等)を満たしているかを確認し、戸籍に反映する報告的届出を行います。判決書・確定証明の日本語訳、国によってはアポスティーユ(公文書の国際認証)や領事認証が必要になります。

在留資格・ビザ・国籍への影響

外国人配偶者の在留資格が「日本人の配偶者等」の場合、離婚により在留の根拠を失うことがあります。離婚後も日本で暮らすなら、就労系・定住者など別の在留資格に変更できるかを早めに検討しましょう。子どもの国籍の扱い(二重国籍の時期的ルールなど)も将来的に重要な論点になるため調べておきましょう。

ケース別の手続きパターン

日本国内で離婚する(相手が外国在住)

話し合いで合意できるなら、相手の署名入り離婚届を国際郵便で取り寄せて提出する方法が現実的です。署名の真正性を疑われないよう、公証や領事認証を付けると安心。合意できない場合は、日本で調停・訴訟に進みますが、国際送達の待ち時間が工程のネックになりやすいため、先んじて翻訳手配やスケジュールの確保を行っておきましょう。

外国で離婚し、日本で報告届出をする

相手国の制度で離婚を成立させ、判決謄本・確定証明・離婚証明書などを取得します。そのうえで、日本語訳とアポスティーユ/領事認証(※)を整え、報告的届出で戸籍に反映します。ポイントは、日本で承認される形式・内容かを事前に確認しておくこと。ここを外すと、日本では「未離婚」の扱いになり、再婚や各種手続きに支障が出てしまいます。

(注:アポスティーユは加盟国間で有効。非加盟国は領事認証)

双方外国在住/第三国での離婚

夫婦とも海外在住なら、通常は居住国の制度で離婚します。第三国での離婚を選ぶこともありますが、日本で承認されるかを事前チェックしないと、二重婚状態や再婚不可といった深刻な不整合が起こり得ます。判決の確定性、手続の適正、日本の公序良俗との整合性などを確認しましょう。

弁護士に依頼するメリット・注意点

■メリット
・最初の見立て(準拠法・管轄)を誤らず、無効や日本での不承認を避けやすい。
・送達・翻訳・認証など手間のかかる事務を一括管理できる。
・親権・養育費・国外資産・在留資格のように分野横断の論点をまとめて設計できる。
・相手国の弁護士・通訳者・公証人等と国際連携しやすい。

■注意点
・国際離婚の取り扱い実績、対応言語、相手国との協働経験を確認しましょう。
・費用の内訳(翻訳・送達・認証・通訳の実費)を事前に明確化しておきましょう。
・長期化を見込み、工程(スケジュール)と当面の生活費の取り決め(婚姻費用の仮払い等)も計画に入れて検討しましょう。

国際離婚に関してよくある質問(Q&A)

Q1. 外国で離婚したら、日本でも自動的に有効と認められますか?

A. 自動ではありません。日本で有効と認めるための条件を満たしているかを確認し、報告的届出をして戸籍に反映します。

Q2. 相手と連絡が取れない/所在不明でも日本で離婚できますか?

A. 条件次第で可能です。公示送達など特別な方法が使える場合がありますが、時間はかかります。まずは管轄が日本で認められるかを確認しましょう。

Q3. 離婚後も外国人配偶者は日本に住めますか?

A. 在留資格が「日本人の配偶者等」だけだと難しくなります。状況に応じて就労系・定住者など、別の在留資格へ変更できるかを早めに検討してください(14日以内の届出義務にも注意)。

Q4. 子どもを一方的に国外へ連れ出された/日本に留め置かれた場合どうなる?

A. ハーグ条約の対象となり、返還請求や面会交流の手続きが動く可能性があります。早期に外務省の窓口と弁護士へ相談を。

Q5. 全体でどのくらいの期間がかかりますか?

A. 事案によりますが、在外送達だけで数か月かかることは珍しくありません。1年前後のレンジを見込み、初動で工程と費用を可視化すると進めやすくなります。

まとめ

国際離婚は、どの国のルールを使うか/どこの裁判所で進めるかという初期設計が肝心です。ここを正しく押さえれば、外国の離婚を日本で通用させることや、子どもの生活を安定させること、在留資格の見通しを立てることが現実的になります。

まずは事実関係(国籍・居住地・資産・子の状況)を整理し、必要書類(判決・証明・翻訳・認証)や工程の見積もりを作ってから動きましょう。早めの準備が、時間と費用、そして生活再建のスピードを大きく左右します。

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