第66回離婚弁護士コラム どこの国で離婚できる?国際離婚と裁判管轄について

近年、日本人が海外に生活拠点を移したり、国際結婚をするケースが増える中、「どこの国で離婚手続を行えばよいのか」という相談が増えています。国際離婚では、感情や財産の問題以前に、まず確認すべき根本的な論点があります。それが「どの国の裁判所が離婚事件を扱う権限を持つのか」という『国際裁判管轄』の問題です。

今回のコラムでは、どの国の裁判所が離婚事件を扱う権限を持つのか、国際離婚と裁判管轄について解説したいと思います。

国際裁判管轄と「人事訴訟法第3条の2

日本の裁判所が、離婚や親権などの人事訴訟事件を扱えるかどうかは、人事訴訟法という法律に従って判断されます。具体的には、 人事訴訟法第3条の2によって、以下の条件に当てはまる場合に、日本の裁判所に管轄が認められています。

1. 被告が日本に住んでいる場合

被告の住所、あるいは住所が不明な場合には居所が日本国内にあるときは、日本の裁判所に管轄が認められます(同条項第1号)。

2. 被告が亡くなった時点で日本に住所があった場合

被告が死亡した時点で日本国内に住所を有していた場合も、日本の裁判所が扱うことができます(同条項第3号)。

3. 当事者双方が日本国籍の場合

夫婦の双方が日本国籍を有する場合には、人事訴訟法第3条の25号により日本の裁判所が管轄を持ちます。

4. 当事者の最後の共通住所が日本にあった場合

離婚前の夫婦の最後の共通住所が日本国内にあった場合、人事訴訟法第3条の2第6号に基づき日本の裁判所に管轄があります。

5. 被告が行方不明の場合

被告の所在が不明である場合も、人事訴訟法第3条の2第7号により管轄が認められる場合があります。

6. 外国の裁判所での離婚判決が日本で効力を持たない場合

すでに外国で離婚判決を得ている場合でも、日本国内で効力を有しない場合には、管轄が認められることがあります(同条項第7号)。

7. その他特別な事情がある場合

上記のいずれにも該当しないが、「日本の裁判所が審理および裁判を行うことが当事者間の衡平を図り、また適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情がある」ある場合に人事訴訟法第3条の2第7号により例外的に管轄が認められることがあります。

 

ケース別国際離婚の管轄

ケース① 日本人と外国人の夫婦が日本で離婚する場合

夫婦の一方が日本人、他方が外国人で、夫婦ともに日本に居住している場合です。このケースでは、被告が日本に住所を有するという条件が第1号に該当するため、日本の裁判所に管轄が認められます。

婚姻生活の本拠も日本にあるため、事件は日本と密接に関連しており、離婚調停や訴訟は日本の家庭裁判所で通常どおり行うことが可能です。

ケース② 日本人と外国人の夫婦が海外で離婚する場合

夫婦の一方が日本人、他方が外国人で、夫婦ともに海外で生活している場合を考えます。婚姻生活の中心が海外にある場合、原則として日本の裁判所に管轄は認められません。

これは、夫婦双方の住所・居所が海外であり、日本との実質的な結びつきが薄、人事訴訟法第3条の2のいずれの号にも該当しないからです。この場合、離婚手続は居住国の裁判所で行うのが原則となります

ただし、婚姻生活の実態が海外中心であったとしても、配偶者から外国においてDVを受け日本に逃げ帰ってきた場合や、一方的に遺棄されたので日本にやむなく帰国した場合などのケースでは、「日本の裁判所が審理および裁判を行うことが当事者間の衡平を図り、また適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情がある」として、第7号に基づき管轄が認められることがあります。

ケース③ 外国人同士の夫婦が日本で離婚する場合

夫婦双方が外国籍場合でも婚姻生活の中心が日本にあると判断されれば、被告が日本に住所を有するという条件1号に該当するため、日本の裁判所に管轄が認められます。

ただ、夫婦双方が外国籍なため、離婚原因や財産分与の基準など、どの国の法律を適用するか(準拠法)の問題は別で、通則法25条以下に従って他国の法律が適用される場合がありますので注意が必要です。

ケース④ 日本人同士の夫婦が海外で離婚する場合

日本人同士の夫婦が海外に居住している場合でも、当事者双方が日本国籍を有することから、人事訴訟法第3条の25のケースに該当します。そのため、このケースでは日本の裁判所でも管轄は認められます。

婚姻生活の本拠が海外であっても、日本の裁判所で手続を進めることが可能であり、日本裁判所における離婚調停・訴訟を通じて離婚を成立させることができます。

外国の離婚判決は日本で有効になるか

外国の裁判所で離婚判決を得ても、その効力が自動的に日本で認められるわけではありません。民事訴訟法118条により、相手方に適正な訴訟機会が与えられ、判決内容が日本の公序良俗に反せず、外国裁判所に適法な管轄がある場合にのみ、日本での承認が認められます。

承認されれば、地方自治体への「外国離婚の届出」により日本の戸籍にも離婚が反映されます。

おわりに

国際離婚では、「どこの国で手続きを行うか」「どの法律を適用するか」という二重のハードルがあります。特に、最初のステップである国際裁判管轄の判断を誤ると、すべての手続が無効になるおそれがあります。海外在住者や国際結婚をしている方は、まず人事訴訟法第3条の2の適用関係を確認することが不可欠です。

当事務所では、外国人配偶者との離婚、海外居住中の日本人同士の離婚、外国判決の日本での承認など、国際離婚に関する案件を幅広く扱っています。裁判管轄の判断から戸籍反映の手続まで、国際家事事件に精通した弁護士が一貫してサポートいたします。まずはお気軽にご相談ください。