親権及び監護権について
「親権」とは、未成年の子を監護・教育し、その財産を管理し、その子を代表して法律行為をする権利を有し、義務を負うことです(民法820条)。
子どもが未成年の場合、夫婦は、双方が親権者として上記の権利と義務を負い、共同で親権者となります。しかし、離婚するにあたっては親権をどちらが持つかを決めなければなりません(離婚届けには親権者を記載する項目があり、記載がないと受理されません)。
また、「監護権」とは親権とは別に、実際に子どもを自分の手元で育てることを言います。
親権(監護権)の決め方
①夫婦で話あって決める
離婚する当事者同士の話し合いで決めることができますが、話し合いが決着しない場合は、調停、裁判と手続きを進めていくことになります。
②話し合いで決まらない場合は、調停、審判、離婚裁判で決める
親権者について夫婦で決めることができない場合には、親権者指定の調停や審判で親権者を定めるか、離婚裁判となっている場合には、離婚と一緒に裁判所が判決で親権者を定めることになります。
親権の判断基準
調停、審判、裁判となった場合、裁判所が親権者を決める方法は、あらゆる事情を考慮して、親権者として夫婦のどちらが良いか判断します。
- 母親優先の原則
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現状尊重の原則(監護の継続性)
- 父母の事情
- 子どもの意思の尊重
- 兄弟姉妹不分離の原則
もっとも、裁判所が最終的に判断するうえで重要視するのは、夫婦のどちらが親権者になることが子どもの利益のためになり、子どもの福祉に資するかを基準に判断します。そのためには、将来にわたる監護の継続性と子どもの安定性は大前提になります。その上で、重要なのは、「子どもの利益」であり、親のエゴや離婚の際の意地の張り合いなどで決めるものではなく、子どもの幸福のために定めるものであることを十分に念頭に置いてください。
1.母親優先の原則について
母親優先の原則とは、これまで子供を監護して生きたしてきた方(母親的な役割を果たしてきた方)が親権者として優位性があるという考え方です。
つまり、父親であっても、これまで育児に積極的に関わっていたのであれば、親権者となれるチャンスがあるのです。
主たる監護者であったか否かについては、例えば、これまで子どもの食事を作ったり、食べさせたりしていたのは誰か、入浴はどちらが行なっていたか、遊んでいたのは誰か、学校の送り迎えは誰が行なっていたか、寝かしつけていたのは誰か、家庭内でのしつけを行なっていたのは誰かなどを総合的に考慮し、判断します。
日本では通常、父親がメインで働いて収入を得る役割で、母親は子どもが小さいうちは専業主婦として、若しくは短時間労働程度で子育ての役割を担っている場合が多いと言えます。
そのため、多くの親権者指定のケースでは女性が有利となる場合が比較的おおいといえます。
しかし、最近は父母が同じくらい働き、母親がメインで働く家庭も増えていますので、父親が主たる監護者である場合も見られます。
2.現状尊重の原則(監護の継続性)
現状尊重の原則とは、その時の子どもの生活環境に特段問題がないのであれば、現状を尊重し、生活環境を極力変化させないようにしようという考えです。
この原則は、現実に形成されている親子の心理的な結びつきを重視するもので、養育者を変更することは、子どもへの心理的不安定をもたらす危険があるということを根拠においています。
3.父母の事情
父親と母親に関して、それぞれの監護に対する意欲や面会交流に対する積極性のみならず、年齢や健康状態、資産収入などの経済力、実家の援助、生活環境などのあらゆる事情を考慮して、子供にとって、もっとも利益になるかどうかによって判断する事情のことをいいます。
4.子供の意思の尊重
裁判所は、子どもが15歳以上の場合、親権者を指定するにあたって、子ども本人の意思を聴かなければなりません。したがって、当然、子どもの意向は尊重されなければなりません。
また、子どもが15歳未満の場合でも、裁判所は子どもの意向を重視しています。
もっとも、子どもが幼い場合(大体10~12歳くらいを基準としていることが多いと思えます。)、多くの事案では父母の両方が大好きであり、自分だけの明確な意思でどっちについて行きたいかを本当に選ぶことなどできません。
そこで、幼い子どもの親権をめぐる紛争では、家庭裁判所調査官が子どもと直接話したりして、状況に応じた評価を行なっています。
5.兄弟姉妹不分離の原則
兄弟姉妹は、一緒に生活したほうが情緒が安定するし、子供の成長にも役立つといった考えを根拠に、兄弟姉妹はできるだけ話して監護養育させるべきではないという考え方です。
もっとも、兄弟姉妹といえども様々な生活環境や状況がありますので、この原則を適用して直ちに親権者が決まることはあまりないと思われます。
監護権について
親権は法律上、「身上監護権」と「財産管理権」に分けられますが、そのうちの「監護権」とは、実際に子どもの世話をする権利である「身上監護権」のことを指します。婚姻中は、夫婦共同で監護権を持ちますが、離婚後は親権とともにどちらか一方が持つことになります。
法令上は、親権と監護権は、離婚後別々に持つことも可能です。
→子の引き渡し・監護権者指定の審判に関する特設ページはこちらになります。
1.監護権についての問題
基本的に離婚後に親権と監護権が分かれる事例は非常に少なく、仮に離婚裁判時に親権と監護権分離を主張したとしてもほとんど裁判所が認めることはありません。
そのため、監護権が一番問題となるのは、別居してから離婚するまでの間に母親と父親のいずれが子どもを育てていくのかの場面で問題になります。
2.監護権の決め方
別居中、子どもを実際にどちらが育てるのかは基本的には両親の話し合いで決めるのが大原則です。
しかし、別居する際に、どちらか一方が他方の同意を得ずに子どもを連れて行ってしまうケースも非常に多くあります。その際に、監護権を決めるには話し合いでは難しく、裁判所の判断が必要となる場面が多いと思います。
実際の手続きとしては「子の引き渡し、子の監護権者指定の審判」という裁判手続きによって、父母いずれが監護権者(主に離婚まで)として適格性があるかを決定してもらう手続きがあります。
3.監護権指定の判断要素
「子の引き渡し、子の監護権者指定の審判」において、裁判所が母親と父親いずれかを監護権者として指定するかの判断の要素としては、まず子どもの年齢にもよりますが、従前別居するまでどちらが子どもの第一次監護権者として子どもを養育監護していたかが最も重要な点となります。
次に、その後、仮に子供を養育監護していくにあたり監護環境がどの程度整っているのか、どちらかに子供を育てていくにあたり、重大な不適格性がないかなどか問題になります。
さらに、重要なのが、審判時において、どちらが実際に子供を手元で育てているかが裁判実務では非常に重要になります。
基本的に裁判所は、現状から子供の環境を変更する決定を出すのを嫌うため、子供を連れて行った際に、強制的な奪取行為などがない限りは、第一次監護権者がどちらだったのか、今後の監護環境は整っているのか、現状、どちらが子供を手元に置いているのかで判断することが非常に大きいです。
この点、よくある思い違いが、単に不貞行為をしていることや精神上の疾患があること自体は、子供の実際に直接的な悪影響があれば別ですが、そのこと自体は子供の監護権者指定にそこまで影響しません。
4.子供が連れ去れてしまった場合や子の引き渡し審判を申立てされた場合
仮に子供が違法・強制的に連れ去られてしまった場合は、1日でも早い対応が必要となります。過去の裁判例や実際の例で、子供が連れていかれてしまい、1か月以上弁護士等に依頼せず、子の引き渡し審判なども申立しない場合は、子供の養育環境が整ってしまった結果、現状維持の原則が働いてしまい、子供の引き渡しが認められない又は非常に困難になるケースが散見されます。
逆に手元に居る子供に対して、他方配偶者から、子の引き渡し・監護権者指定の審判を申立てされた場合に、適切ではない応答をしていると、裁判所の迅速な手続きで子供の引き渡しが命じられるケースなどもあります。
このように、子供の連れ去り問題や子の引き渡し審判の問題は、一日でも早く、かつ、子の引き渡し等についての実務に精通した弁護士の対応が重要となってきます。
弊所では、子の連れ去り問題や子の引き渡し・監護権者指定の審判等の数多くの実績があり、緊急的な対応も可能なので、もしそのような事態が発生した場合は、1日でも早いご相談をお勧めいたします。