第70回離婚弁護士コラム 養育費をもらっていない人必見|2026年4月1日施行の法定養育費制度とは

はじめに

離婚に直面したとき、多くの方が悩む問題の一つが「養育費」です。子どもの生活を支えるために必要な費用であることは分かっていても、実際には養育費が取り決められなかったり、決めても支払われなかったりするケースが少なくありません。

家庭裁判所の統計などを見ても、離婚後に養育費を継続して受け取れている割合は決して高いとは言えず、特に母子世帯では、経済的な困難を抱える原因の一つとなってきました。その背景には、養育費が「当事者同士の話し合い」に大きく委ねられてきたという制度上の特徴があります。

話し合いがまとまらなければ養育費は決まらず、決まらなければ請求もできない。結果として、そのしわ寄せは子どもに及ぶ――この構造が、長年にわたる課題でした。

2026年4月1日から始まる法定養育費制度とは

こうした問題意識を踏まえ、2026年4月1日から改正法の施行により導入されるのが「法定養育費制度」です。この制度は、簡単に言えば、養育費について当事者間で取り決めがなくても、法律上当然に発生する最低限の養育費を定める制度です。

最大のポイントは、「話し合いがなくても、具体的な養育費が発生する」という点にあります。

従来は、離婚の際に養育費の取り決めを行わないと、あらためて協議で合意を成立させるか、または、調停や審判を経ないことには具体的な養育費の額が定まらないため、養育費を請求するのが難しい現実がありました。

しかし、法定養育費制度により、合意等がなくても、養育費の請求権がいわば自動的に発生することになるため、具体的な額について合意等がなくても、法定養育費として定められた額については、いつでも請求できるようになります。

これまでの養育費は、「合意がなければ存在しないもの」のように扱われがちでした。これに対し、法定養育費制度では、子どもが親から扶養を受ける権利をより強く保障するという考え方が、制度の前面に出ているのです。

法定養育費制度で何がどう変わるのか

法定養育費制度の導入によって、特に大きく変わるのが、「養育費が決まらないまま離婚した」というケースです。離婚の際、養育費について何も決めないまま離婚届が提出されることは、決して珍しくありません。

従来の制度では、養育費について取り決めがない場合、養育費を請求するためには、まず話し合いを行い、それでも合意ができなければ調停や審判といった裁判所の手続を利用する必要がありました。そのため、請求に踏み出せず、そのまま時間が経ってしまうことも多くありました。

しかし、制度開始後は、たとえ協議や調停で養育費を決めていなくても、法定養育費の支払義務が発生します。つまり、具体的な金額についての合意がなかったとしても、最低限、法定養育費の分は請求できるということです。

法定養育費の金額

法定養育費制度は、離婚時に養育費についての話し合いが整っていない場合でも、法律上請求が認められる最低限の金額を定めた制度です。そして、2025年11月に法務省で、子ども1人当たり月額2万円とする方針が決定しました。

例えば、子どもが2人いる場合には、2万円×2人で、月額4万円を法定養育費として請求できることになります。改正民法の施行日は、2026年4月1日です。

もっとも、この金額はあくまで法律で定められた「最低限の基準」にすぎません。法定養育費は、当事者間で養育費についての合意が整うまでの間、子どもの生活を支えるための暫定的・補充的な措置として位置づけられています。

家庭ごとの収入差や子どもの年齢、生活環境によっては、より高額の養育費が必要になるケースも少なくありません。法定養育費の金額は、こうした個別事情を反映したものではない点には注意が必要です。

そのため、法定養育費制度が導入されたからといって、養育費についての話し合いや取り決めが不要になるわけではありません。引き続き、当事者同士の協議や、必要に応じて家庭裁判所での手続を通じて、適切な養育費額を定めていくことが重要となります。

ポイント
▪️法定養育費は、養育費についての合意がない場合でも請求できる、法律で定められた最低限の金額
▪️家庭の事情に応じた養育費を定めるためには、引き続き協議や調停等が必要

養育費の「払われない」を防ぐための改正

法定養育費制度とあわせて、今回の改正民法・改正家事事件手続法で特に重要なのが、養育費を「きちんと払わせるための仕組み」が大きく強化された点です。これまで多くの方が感じてきた「決まっても、結局払われない」という問題に、正面から対応する内容となっています。

まず、改正民法では、養育費を含む子の監護に要する費用について、新たに「先取特権」が認められました。先取特権とは、一定の債権について、他の債権者よりも優先して回収できる権利のことです。これにより、養育費は「優先的に回収されるべきお金」として、法律上明確に位置づけられたことになります。

これまで、養育費を回収するために相手の給与などを差し押さえるには、判決や調停調書、公正証書といった、いわゆる「債務名義」が必要でした。そのため、当事者間で合意書を作成していても、それが私文書にとどまる場合には、改めて裁判所の手続を経なければ差押えを行うことができませんでした。

しかし今後は、父母間の合意書(私文書)や、法定養育費の規定そのものを根拠として、差押えの申立てが可能となります。これにより、養育費の支払いを事実上先延ばしにする余地は大きく減り、実効性の確保が期待されます。

さらに、改正家事事件手続法によって、裁判所の手続面でも大きな変化が生じています。養育費の調停や審判において、裁判所が当事者に対して直接、収入や財産に関する情報の開示を命じることができるようになりました。

加えて、財産の開示手続と差押えの申立てを、一連の流れとして同時に行うことも可能になります。従来のように、手続の合間に財産を移されてしまうといった問題が起こりにくくなり、いわゆる「財産隠し」への対策としても大きな効果が期待されます。

このように、今回の法改正は、養育費の基準を示すだけでなく、「決める」だけで終わらせず、「実際に払わせる」ことまでを見据えた制度設計となっています。

法定養育費があっても「話し合い」や「取り決め」は重要

法定養育費制度は、あくまで最低限の養育費を確保するための制度です。そのため、この制度が始まるからといって、養育費について何も決めなくてよいというわけではありません。

子どもの進学費用や医療費、将来に向けた備えなど、最低限の養育費だけでは対応できない場面は数多くあります。こうした点まで含めて取り決めをしておくことで、後々のトラブルを防ぎ、より安定した生活につなげることができます。

おわりに

法定養育費制度は、離婚に伴う不安をすべて解消する「万能の制度」ではありません。しかし、養育費が支払われないことによる経済的な不安を、少しでも和らげる効果は期待できます。

養育費の問題は、離婚後の生活を長く左右する重要なテーマです。制度の内容を正しく理解したうえで、自分や子どもにとってどのような選択が望ましいのかを考えることが、将来の安心につながります。

離婚や養育費についてお悩みがある場合には、一人で抱え込まず、早めに専門家へ相談することが、子どもと自分自身の生活を守る第一歩です。

当事務所では、法定養育費制度や改正民法を含めた離婚問題に詳しい弁護士が、状況を丁寧にお伺いしたうえで、最適な進め方をご案内しています。初回相談は無料です。どうぞお気軽にご相談ください。