第5回離婚弁護士コラム 経営者・社長のための離婚相談
札幌を中心に数多くの離婚問題の相談を弁護士として受けておりますが、その中には経営者の方、または経営者の配偶者の方のご相談も多くあります。今回のコラムでは、社長・経営者の方向けに、離婚の際の注意点等をまとめたいと思います。
複雑になりがちな社長・経営者の離婚問題
社長や経営者、役員の方は一般的に収入が多く、そのため、離婚する際の離婚条件においては、財産分与、慰謝料、養育費、婚姻費用などが高額になることが多いです。
また、不動産、貴金属、会社の株(株式)等などは、預貯金や現金と異なり、単純に2等分するのが難しいため、話し合いが難航し、離婚成立までに長期間かかったり、訴訟に発展してしまい、泥沼化してしまうことがあります。
また、離婚した際に、株式を双方が持ったまま特段、清算せずに、離婚してしまうと、会社の意思決定において他方配偶者を参加させる必要性が生じる結果となってしまうことがあるため、離婚時に株式譲渡等により資本関係を適切にしておく必要があります。
このように、経営者の離婚は、離婚の際に必要となる種々の金銭が高額になりがちであり、また複雑な会社経営に関連する問題が生じやすいため、弁護士が介入する必要性が高いといえます。
経営者の離婚と財産分与の割合
離婚時の財産分与は、夫婦によって形成された共有財産を清算するという趣旨から、通常は夫婦の共有財産を2分の1にして、双方に等分で分けられることになります。
しかし、他方配偶者の個人的な特殊能力や夫婦生活とは関係のない個別の努力によって多額の資産が形成されたような場合には、夫婦共有財産の形成とは異なり、2分の1ずつの等分にはならない場合があります。経営によって築き上げられる財産は、その人の特殊能力によって形成される場合も多く、財産形成に対する寄与度が異なり、割合が等分ならない場合があります。
例えば、下記のような裁判例があります。
妻が15年以上、営業努力をして事業を発展させた一方で、夫は、飲酒して妻子に暴力を振るうなどして資産形成に対する寄与が少なかったケースで、妻に7割の財産分与を認めた例(松山地方裁判所西条支部判決/昭和42年(タ)第11号)。
一部上場会社の代表取締役が離婚した場合で、共有物財産の価格の合計約220億円の5%である10億円を財産分与の額とした例(東京地方裁判所判決/平成13年(タ)第304号、平成13年(タ)第668号)。
離婚の際に従業員であった配偶者を辞めさせることについて
経営している会社に配偶者を従業員(または役員)として雇用していることが多くあります。この場合、離婚するときに、配偶者を解雇することができるかどうかといった相談を受けることが多くあります。
基本的には、離婚という夫婦間の問題と解雇という労使間関係の問題は、別個独立した異なる問題であり、より正確に言うと、婚姻関係と雇用契約に基づく雇用関係はなんら連動していません。
そのため、離婚したからといって、雇用されている配偶者を解雇することはできません。
法律上、従業員を解雇するには、客観的・合理的な解雇事由があり、かつ、社会通念上相当と認められるような場合でないと無効となります。離婚したためという理由は、そのことをもって直ちに合理的理由とはいず、仮に裁判になった場合は、解雇は無効となるでしょう。ただ、離婚原因が社内不倫問題を生じさせた場合などは、解雇を有効とする判断もあり得ます。
離婚と会社株式について
自ら経営している会社の株式についても、当然、社長個人が所有している財産である以上、個人財産として、財産分与の対象となります。
非上場会社の場合、市場価格が存在しないので、財産分与の前提としての価値を算定する場合、株式の価格を算定するためには会計士等の専門家の協力が必要です。また、譲渡しようにも、譲渡制限がかかっている場合も多いですので、譲渡承認手続きが必要になることになります。
さらに、株主は会社の実質的所有者でもありますので、例えば、夫が経営者として株式の大部分を所有し、妻も一部を所有しているという場合、離婚してからも、妻に議決権が残ると不都合ですから、夫が株式を買い取るという形を取ることもあります。
また、個人経営のような場合、個人資産と会社の財産が混ざってしまい、区別することが難しいこともあります。このような場合、会社の財産は、基本的に財産分与の対象にはなりませんが、会社財産との立証ができず、個人資産と同視されてしまう場合、財産分与の対象となることもあります。
経営者の離婚
このように、経営者の離婚には、夫婦間の問題にとどまらず、会社経営に関わる判断が求められることもありますので注意が必要です。当法律事務所の弁護士は、離婚のみならず企業法務にも精通しておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。