婚姻費用の減額の可否について

いったん調停で合意が成立した婚姻費用について、合意後に生活や収入状況が変わった場合に、婚姻費用の減額は認められるのでしょうか。

別居期間が長期に及び夫婦双方の生活状況が変わったのに、取り決めた婚姻費用のままでは不公平に感じられる場合もあります。

 

名古屋高等裁判所平成28年2月19日決定では夫が婚姻費用の減額を求め結論として、婚姻費用の減額を認めました。

「「事情の変更」とは、協議又は審判の際に考慮され、あるいはその前提とされた事情に変更が生じた場合をいい、協議または審判の際に既に存在し、判明していた事情や、当事者が当然に予想し得た事情が現実化したにとどまる場合を含むものではない。」と述べた上で、本件については、前件調停成立後に3人の子が出生し、夫が認知しているので、夫が扶養義務を負う未成年の子の数に変更が生じたことが認められ、「事情の変更」に該当すると判断しまし、結論として婚姻費用の減額を認めました。

もっとも婚姻費用減額の始期については,夫が主張する事情の変更が生じた時期ではなく、減額の申立てをした日付としました。

 

他方、大阪高裁平成22年3月3日決定は、以下のように判断し、夫からの婚姻費用の減額請求を認めませんでした。

夫が調停で妻に対し月額6万円の支払を約束した後、収入が減ったことを理由として減額を求めた事案で以下のように判断しています。

「調停において合意した婚姻費用の分担額について、その変更を求めるには、それが当事者の自由な意思に基づいてされた合意であることからすると、合意当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合など、分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要である。」とし、

本件事案では、

「仮に夫の退職がやむを得なかったとしても、その年齢、資格、経験等からみて、同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができ、そうすると、夫が大学の研究生として勤務しているのは、自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり、その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。」と判断して、夫の婚姻費用分担額の減額を求める申立を認めませんでした。

 

以上二つの決定から見ても、調停合意当時に予測できた事情が現実化した程度では婚姻費用の減額を認めるべき事情の変更とはいえず、減額が認められない可能性が高いといえます。

一方、合意当時には予測しえなかった事情や客観的に観て婚姻費用の減額もやむをえないといえる事情があった場合は、減額が認められやすいといえます。